今回は、「教育七五三」という言葉を紹介し、説明します。これは、ルポライターの瀧井宏臣さんの書物に登場した言葉ですが、どういう意味の言葉で、私たちはどう受け止めればいいのでしょうか。マナビバが説明します。
教育七五三の意味は?
- 「高校生の7割」は学習内容を理解できていない
- 「中学生の5割」は学習内容を理解できていない
- 「小学生の3割」は学習内容を理解できていない
「教育七五三」とは 、高校生の7割、中学生の5割、小学生の3割が、学校の授業の内容をよく理解できずにいる、というものです。『「教育七五三」の現場から』(2008年、祥伝社新書)という本の題名に使われ、現代の教育問題のひとつである子どもたちの学力低下を表したものとして登場しました。
この「教育七五三」の表現は急速に学校や学習塾に広まりました。ルポライターの瀧井宏臣さんがこの本を書いたのは2008年ですが、実際にはこのような問題は1960年代よりも以前から始まっていました。もっと言えば、いつの時代でも何割かの子どもたちは学習内容を理解できていないのが現実です。七五三という語順でいえば、学習内容を小学生は7割の子が理解し、中学生は5割が理解、高校生は3割が理解、という順で把握しておくとわかりやすいです。
ここでは、まず「教育七五三」の意味が授業についていけない状態の子どもたちの割合を高校、中学校、小学校でそれぞれ7割、5割、3割くらいいる、と理解してください。
授業についていけない子が増える理由は⁉
学校で授業についていけない子どもは昔から常にいます。逆に、勉強を全然しない子どもも含めて全員がついていけるような易しい内容の授業ならば、様々な面で日本の技術力、科学力、語学力などが大きく低下することが予想できます。国としては、ある程度の学習レベルを保ち、それを全員が勉強して授業についてきてほしい、という考えを持っています。
したがって、授業を聞いていない、宿題をやらない、わからない所を放っておく、などの子どもたちが現実として存在する以上、授業についていくのが困難になる子どもたちは一定数いることになります。そのような学習内容を理解できない小学生が、中学校に入学したら勉強しなくても授業につていけるようになった、という話はなかなか考えられません。
つまり、小学校で授業についていけない子は中学校でも勉強しない限りは授業についていけない、ということになります。そこに、小学校までは授業についていけたのに中学校に入学したら学習レベルが上って授業についていけなくなった、という子が加わります。
このようにして、小学校で学習内容を理解できない子が大体3割いたところに中学校に入ってから授業についていけなくなる子も加わって、5割くらいの生徒が中学校の学習内容を理解するのが困難な状況になる、という経緯になります。そして、中学校から高校へ進むときも同様の現象が見られます。それで高校の授業についていけていない生徒が約7割になるということです。
学力低下で「教育七五三」と言われた背景は?
- 学習形態の多様化を実践した
- 相対評価を絶対評価に変更した
- 生活環境や社会状況が変化した
①「学習形態の多様化を実践した」について
「教育七五三」と表現されるような学力低下は避けられない側面があります。次々と変わりゆく時代に対応できるよう、当時の文部省が学習内容の改定を決定しましたが、その内容は総合学習や情操教育、フィールドワーク、ディベート演習など幅広く学習する量を増やす、というものでした。多角的なものの見方や考え方を養い、複雑化する社会を理解してもらうための時間を増やすのが主目的だったのです。
それを実行するには、それまでの教科書の「覚える学習」を主体にした内容を削るのはやむを得なかった、という事情があります。1980年代から教科書の内容が徐々に易しくなっていき、特に2002年~2011年の教科書は最も易しいと見られています。
②「相対評価を絶対評価に変更した」について
またこの時期に中学校の成績表の作り方も「絶対評価」に変更されました。この「絶対評価」は、例えば生徒の全員が5段階の4や5の成績になることが可能な方法で、それまでの「相対評価」のような5段階の5が全体の7%で4は24%と決められている評価制度ではなくなりました。これで、提出物を出していて授業態度も良い、などの状態が続けば学力が低くても5段階の3や4を取れるようになりました。
この期間に義務教育を受けた世代が「ゆとり世代」と呼ばれています。この「ゆとり世代」の子どもたちに対しては、国も単に勉強をラクにさせようというつもりで教育方法を変えたのではなく、幅広く学んだり体験したりの教育を実施しようとした結果、伝統的に培われてきた日本の子どもたちの学力が下がってしまったというわけです。
③「生活環境や社会状況が変化した」について
このような学力低下には、学校の教育カリキュラムだけではなく、朝ごはんを食べない子が増えているなど、生活面の影響も考えられます。さらに経済力の低い世帯の子は塾に通えないので学力の差を埋められなくなる現象も見られます。生活習慣の変化や長期間続いた平成不況下での学力の低下は、容易には改善されないと考えられます。
大学進学と「教育七五三」は関係あるの?
「教育七五三」が問題視されるくらい学力が低下したことと、大学進学とは大いに関係があります。
昔から学校の授業についていけない子が一定数いる中で、多数あった大学が少子化の時代に生き残るため、学力の低い高校生でも入学できるようにした大学が増えました。入試で重要な科目である国語、数学、英語、理科、社会の主要5教科の学力が低下していても得点できるよう、例えば入試の選択問題が5択から4択に、4択から3択に減らすなどの試験を実施する大学が出てきました。設問によっては2択の問題も出すなど、本当に学力をテストしているのか疑問に思える大学すらあります。
こうなると、子どもたちは「勉強しなくても大学に入れる」と思ってしまい、ますます勉強しなくなります。特に「ゆとり世代」と呼ばれる1987年あたりの生まれ〜2003年あたりに生まれた世代は学力の低下が顕著と言われています。
大学進学と一口に言っても、どの大学に行くかをよく検討し、それに合わせた受験勉強の態勢を整えましょう。
「教育七五三」を改善する対策は?
- 家庭でも普段からよく文章を読む
- 親子の対話で思考力や自主性を育てる
子どもたちにとって、授業についていけない時点で学校生活も面白くないものになり、さらに勉強しなくてもどこかの大学には何とか入れるという点で「努力しない生活、何も考えない生活」が身についてしまいます。
このような学力低下の時代に可能な対策としては、私たちが無理に費用をかけない範囲で工夫しながら前向きに学習を積み上げていくのが最も真っ当な対策といえます。
映像ばかりの生活ではなく普段からよく文章を読む生活、親子で対話を重ねながら考える力や自主的に取り組む姿勢を育てる生活が大切になります。一所懸命に取り組む充実感、苦難を乗り越える達成感、自ら結果を出しての成功体験、などを得ないで大人になってしまうことは避けたいところです。親も子も、「やらなくてもなんとかなる」という見方を持たず、「努力と工夫で良い結果が得られる」という意識を持つことが大事です。
「就職七五三」もある!
集団社会では、子どもたちだけではなく大人の社会でもある一定数が取り残されてしまう現象が見られます。
大学まで行き、しかも偏差値の高い有名大学を出ているのにニートになってしまう人たちがいます。ここにも、集団での仕事や求められている社会生活の基準や規定に合わせらない人たちが少なからず存在しています。
子供の頃から集団社会についていけない、合わせられない、という状況が慢性化すると、就職した後も何らかの対策が必要になります。
まとめ
今回は「教育七五三」という言葉を紹介し、説明しました。ここでの問題は、学習内容を理解できないというだけのものではなく、人生の成長過程で経験しておくべき大切なことが粗雑に考えられるようになってしまっている点です。総合学習などで多角的な視点やあらゆる情報を入手できる環境にありながら、基礎的な文章や計算については考えることができない、という偏った子どもたちの状況について、大人たちはよく考え直さなければいけない時期にきています。